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私の専門分野は政治思想史・国際思想史、研究テーマは初期近代における異文化接触の思想史です。思想史研究者の仕事は、過去を顧みて現代社会の課題解決に努めることです。それは、時代とともに「移り変わる」もの、その核にある「変わらない」もの双方に着目し、社会をよりよいものに変えていこうとする精神に支えられています。

たとえば、ここ100年間の私たちの暮らしを振り返ってみても、風俗、科学技術、政治などの面で、社会は大きな変化を遂げました。和装から洋装へ、土砂からアスファルトへ、木造家屋から高層ビルへ、紙芝居からテレビ、インターネットへ、自転車から自動車、電車、飛行機へといった生活面での変化、また身分制廃止、普通選挙権、男女同権、民主主義の定着といった政治面での変化です。これらの面からみると、100年後の社会もずいぶん変わるでしょう。一方では、財政破綻、少子高齢化、貧困や格差の増大、エネルギーや資源の枯渇などにより、社会の存続自体が危ぶまれています。他方では、遺伝子工学、ナノテクノロジー、人工知能の進歩により、これまでの社会の仕組みそのものが劇的に変わるとも言われています。

けれども、このような変化の深層には、古来変わらないものがあります。たとえば100年前の東京を映したカメラに映る、満開の桜の下で花見を楽しむ人々のように、あるいは雑踏の中で毬つきをして遊ぶ子どものように、いかなる時代、環境、政体の下でも、家族、友人たちとともに、あるいは大小、濃淡様々なコミュニティのつながりにおいて、笑い、泣き、怒り、喜ぶ何気ない日常生活が存在します。他者を害さない限り、誰もが自分の思うように幸せに毎日を過ごせること、これは古今東西人間が求め続けてきたものであり、今後どのような社会変化が起きようとも求め続けられるものでしょう。

主著:Natsuko Matsumori, The School of Salamanca in the Affairs of the Indies: Barbarism and Political Order (London: Routledge, paperback edition, 2021).


この面から歴史を顧みるならば、アフリカで人類が誕生して以来、人間は心地よく暮らせる環境を求めて、自らの共同体を越境しながら移動してきました。獲物、商い、富を求めて、修業のために、戦禍や迫害を逃れて、軍事的・宗教的ミッションを遂行するために……。その際、異なる共同体間の関係は、語源を同じくするホスピタリティ(hospitality: 歓待)とホスティリティ(hostility: 敵意)の概念の下に、客-敵、歓待-排除の二面性を持ち続けてきました。

長期的にみれば、既存の境界線を超える人々の移動と,それに伴う異文化接触は,今後も増加の一途をたどるでしょう。これから私たちが生きていく社会は、自分も周りの人々もともに心地よく生きるということはどのようなことであり、そのためにどうすればよいのかという問いに対する私たち一人一人の回答と行動次第で、大きく変わってきます。みずみずしい感性にあふれる学生さん、院生さんたちとともに、これからの社会のあり方を考えることができる毎日に感謝しています。
(松森奈津子)

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